置いてけ

「あ。」
 山鳥毛の膝の上に座らされながら思い出したように顔をあげる。
「修行行く時、内番着置いていってくれる? 出来れば未洗濯で」
 山鳥毛は数秒きょとんとした顔をしたあと、堪えきれず吹き出した。
「……っ、はは……!」
「な、何よ……!」
「いや、君は本当に……」
 笑いながら額へ手を当てる。珍しく声を上げて笑っている。
「修行前にそんなお願いをされるとは思わなかった」
「だって寂しいんだもん……」
「しかも未洗濯で≠ゥ」
 その部分をわざと繰り返され、顔が熱くなる。
「……だって匂い残ってるし」
「小鳥」
 山鳥毛は笑いを滲ませたまま、じっとこちらを見た。赤い瞳が妙に熱っぽい。
「君、思った以上に重症だな?」
「うぅ……」
「修行前からそんな調子で、四日持つのかい?」
 からかう声なのに、抱く腕はどこまでも優しい。逃げ場を塞ぐみたいに腰を支えられる。
「でも、そうだな……」
 山鳥毛は少し考えるふりをして、それから低く笑った。
「内番着くらいなら置いていこう」
「ほんと!?」
「そんなに嬉しそうな顔をされると複雑だがね」
 指先が頬をつつく。
「私本人ではなく服で満足されても困る」
「服で満足できるなら鳩飛ばさないかも」
「それは嘘だろう?」
 即答だった。
「君は三日目くらいで匂いだけじゃ足りない≠ニ言い始める」
「……否定できない」
「ふふ」
 山鳥毛は満足そうに笑い、私の耳の後ろを指先で撫でた。
「だが、未洗濯の内番着を抱えて眠る小鳥は随分可愛いだろうな」
「……っ」
「歌仙あたりに見つかったら、かなり気まずそうだ」
「やめて想像しないで……!」
 思わず胸元へ顔を埋めると、山鳥毛は肩を揺らした。
「安心おし。ちゃんと君の部屋へ置いていく」
「……うん」
「袖でも抱いて眠るかい?」
「……するかも」
「なら、香くらい残るよう意識して着ておこうかな」
 耳元でぼそりと囁かれ、また心臓が跳ねる。
「修行先で私が君を恋しがるのと同じように」
 抱き締める腕がじわりと熱を増す。
「君にも、少しくらい私に溺れていてもらわないと釣り合わないだろう?」




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